【枚方市の相談支援専門員へ】「正しいこと」より「楽しいこと」があなたの専門性を高める理由

フレッシュマン相談支援専門員を孤立させない!
Hi-CoNetが挑む「正しい知識」と「楽しい実践」を両立させる人材育成戦略
はじめに:なぜ今、枚方市でフレッシュマン研修が必要なのか
枚方市相談支援事業者連絡会において、地域で活躍する相談支援専門員の皆さまを対象とした、新たな研修体系の検討が進んでいます。特に、初任者研修修了後5年目まで、あるいは実務経験のないフレッシュマンを対象とした「フレッシュマン向け連続講座」と、地域全体の学びの場である「Hi-CoNet勉強会」との連動による、体系的で実践的な人材育成プログラムです。

この研修のグランドコンセプトは、「正しいこと(制度や知識)より、楽しいこと(実践と発見)のほうが学びが多い」という、極めて実践的なテーマにあります。
私たちが相談支援専門員という仕事に情熱を注ぐとき、複雑な制度や煩雑な事務作業の「正しさ」に押しつぶされそうになる瞬間は少なくありません。しかし、この仕事の本質は、利用者一人ひとりの「言葉にならなかったニーズ」を見つけ出し、制度の隙間を埋め、支援のバリエーションを調整する、「非定型性の高い」実践力にこそあります。
本記事では、枚方市が直面する課題を乗り越え、皆さまの専門職としてのキャリアを力強く支えるために、この新しい研修体系がどのように設計されているのかを詳しくご紹介します。
--------------------------------------------------------------------------------
Ⅰ. 枚方市相談支援体制の現状と研修が担うべき責務
枚方市は、障害のある人たちが安心して地域生活を送るための支援体制の充実に向け、喫緊の課題を抱えています。
1. 相談支援体制の量的・質的な課題
枚方市では、アンケート調査の結果から、障害福祉サービスに関する相談先として障害者相談支援センターを選ぶ人がまだまだ少ないことが明らかになっています。また、相談支援サービスを「利用しない理由」として、約半数の人が「どんな内容を相談すればよいか、わからないから」(29.2%)、「どんなサービスか知らないから」(20%)を挙げており、潜在的なニーズを持つ人へのサービス内容の周知とアクセス向上が大きな課題です。
さらに、市全体の課題として、相談支援事業所の数が十分でなく、やむなくセルフプランを作成する方がまだ多い状況が認識されています。市は、実情を把握した上で、計画的に相談支援事業所を整備し、各事業所の機能強化を図る方針を掲げています。
このような背景から、フレッシュマン研修は、単なる知識の伝達に留まらず、質の高いサービス等利用計画を作成できる人材の育成、そして地域全体の相談支援体制の強化という、重い責務を担っています。
2. 相談支援専門員に求められる「7つの資質」の獲得
相談支援従事者は、ケアマネジメントの全プロセスに関わるため、高度な資質が求められます。特に、フレッシュマンがまず身につけるべき専門性の土台は、以下の3つの柱に集約されます。
1. 基本的な価値と姿勢の確立: 利用者の主体性の尊重、権利擁護、エンパワメント、ストレングスアプローチ(利用者の強みに着目する視点)といった、支援の根幹となる倫理観と価値観を理解し、中立・公平性の徹底を図ること。
2. ケアマネジメントプロセスの実践力: インテークからアセスメント(評価)、プランニング、モニタリング、エバリュエーション(再評価)という一連の流れを体系的に理解し、特にアセスメントを通じて本人の人柄・個性を理解し、ニーズを言語化・可視化する技術。
3. 地域連携と制度活用: 福祉、医療、教育、就労など、複雑に絡み合う法制度やサービスに関する知識を持ち、地域にある公的・インフォーマルな社会資源に関する情報収集力と、それを活用・改善する姿勢を持つこと。

「相談支援従事者に求められる7つの資質」について、ソースに基づいて具体的に解説します。
相談支援従事者(相談支援専門員など)は、ケアマネジメントの全プロセスに携わるため、特定の7つの資質が求められます。
この7つの資質は、大きく分けて、①支援の基盤となる人間関係構築力、②問題解決のための専門的なアセスメントとサービス活用能力、③地域全体への働きかけとチーム支援の力に分類できます。
以下に、その7つの資質と、それぞれに求められる具体的な能力を示します。
| No. | 相談支援従事者に求められる資質 | 目的と求められる能力 |
|---|---|---|
| ① | 信頼関係を形成する力 | ケアマネジメントにおいて信頼関係を形成する力が求められます。そのため、利用者の立場に立つことが必要です。また、多くの人々とチームワークを組むため、利用者のプライバシーの保護や人権の尊重に配慮する必要があります。 |
| ② | 専門的面接技術 | 相談を通じて、利用者の生活全体を理解するために必要です。利用者を一人の生活者として理解し、相互の十分な意思疎通を図ることによって、ニーズをともに明らかにしていくことが求められます。この過程で、利用者の感情表現を敏感に受けとめ、利用者の価値観を受容し、従事者自身の感情を覚知しながら進めます。 |
| ③ | ニーズを探し出すアセスメント力 | 本人の希望や思いを丁寧に聴き、多様な手法を用いて本人を取り巻く状況(環境、現状、生きてきた歴史など)や人柄・個性をよく理解する力です。本人とともに、困りごとや解決したい課題を整理し、めざすべき方向を一緒に定めることが重要です。 |
| ④ | サービスの知識や体験的理解力 | 本人とともに定めた方向に向かうための具体的な方法を考え、必要な社会資源を調整し、計画的に活用していくために必要な能力です。 |
| ⑤ | 社会資源の改善及び開発に取り組む姿勢 | 公的(フォーマル)サービスだけでは対応できない領域を補完するインフォーマル・サービスを含めた社会資源の改善及び開発に取り組み、地域のつながりや支援者・住民等との関係構築を行う姿勢が求められています。 |
| ⑥ | 支援ネットワークの形成力 | 地域の関係諸機関(福祉、保健、医療、教育、就労など)と緊密に連携し、利用者のための支援ネットワークを構築する力です。これはコミュニティワークの視点も含むとされています。 |
| ⑦ | チームアプローチを展開する力 | 障害者が地域生活を実現し継続していくためには、本人だけでなく、家族を含む環境の状況により多様な支援が必要となるため、関係者が一つのチームとして丁寧に行う必要があります。支援ネットワークやチームで協働する力が求められます。 |
相談支援専門員は、これらの資質を養うことで、行政(行政職員)のパートナーとして「相談支援における基本的姿勢」を共有し、縦割り行政の中の「横ぐしを刺す重要な役割」を担う存在として期待されています。
なお、これらの資質は、相談支援従事者に求められる資質として、①大切なこと(価値)、②知識・技術、③実践という三つの要素に分類されて整理されることもあります。例えば、①の「大切なこと(価値)」には、利用者の主体性の尊重、権利擁護、エンパワメントに着目した支援、中立性・公平性の保持などが含まれます。
Ⅱ. 研修のコンセプト:
「楽しい実践」が知識を血肉化する
制度や法規は常に「正しい」ものとして存在しますが、現場での実践は「非定型」であり、答えは一つではありません。
研修では、制度の「正しい知識」(連続講座でカバー)を、現場での「楽しい実践」(Hi-CoNet勉強会で深化)を通じて血肉化することを目指します。
1. フレッシュマンが直面する課題の解決
相談支援の仕事は、報酬体系が低く、煩雑な業務や担当件数の多さから、支援者が疲弊しやすく、特に小規模事業所では孤立化しやすい構造にあります。
フレッシュマンが「楽しい」と感じ、学びを深めるためには、「即座に役立つ具体的な技術」と、「孤立を防ぐネットワーク」の提供が不可欠です。
• 専門的面接技術の獲得: 面接を通じて、利用者の生活全体を理解し、本人の考え方や価値観、生きてきた歴史などの人柄・個性を深く理解すること。
• 非定型な課題への対応力: 利用者の多様で複雑な課題(8050問題や社会的孤立、ダブルケアなど)に対し、既存の制度の狭間にいるケース全体を捉えて関わる「伴走支援」の機能を養うこと。
• 安心感の醸成: 初任者研修を修了しても、現場で「分からないことばかりで誰に聞けばよいのか不安だった」という声は多く、他の相談員とつながりを持てたことが研修の価値となっています。
2. 二本柱の研修体系
研修は、知識の土台を築く「フレッシュマン向け連続講座」と、地域課題解決と実践力の深化を図る「Hi-CoNet勉強会」に分担されます。
1) フレッシュマン向け連続講座(基礎固めと行政連携)

この講座では、主に体系的な知識のインプットと行政手続きの確実な理解に重点を置きます。
| 重点テーマ | 目的と内容 | 研修形態 |
| ケアマネジメントプロセスの基礎 | 計画相談支援(サービス利用支援、継続サービス利用支援)におけるアセスメント、プランニング、モニタリングの基本的な流れを学ぶ。特に初回面接やアセスメントの基礎技術をロールプレイを通じて体得し、知識を実践で定着させる。 | 座学、ロールプレイ |
| 行政手続きとルールの確認 | 枚方市の行政担当者から「特定相談支援事業所に求めるもの」「支給決定や計画及びモニタリング報告書提出時の注意点」「加算取得の要件」について説明を受ける機会を設けます。市町村は、支給決定の実施主体であり、相談支援専門員による支援が円滑に行われるよう支援するとともに、モニタリングについて検証する役割があるため、この行政との連携は不可欠です。 | 講義、質疑応答 |
| 法制度とサービス知識の習得 | 障害者総合支援法や児童福祉法に基づくサービス体系、および地域生活支援事業(委託相談)の基礎知識(福祉サービスの利用援助、社会資源の活用支援、権利擁護など)を確認する。 | 座学 |
2) Hi-CoNet勉強会(実践力の深化と地域資源開発)
この勉強会は、地域の実践者同士が知恵を共有し、非定型的な困難事例に対応する力を養う場として機能します。
| 重点テーマ | 目的と内容 | 研修形態 |
| 事例検討会とグループSV | 自身が担当する困難ケース(例:複雑な背景を持つ事例、セルフプランからの切り替え事例など)を持ち寄り、主任相談支援専門員や学識経験者によるスーパービジョン(後方支援)を受ける。これにより、個々の支援者の感性や力量に依存しがちな問題を組織的な指導で解決する。 | グループワーク、事例検討 |
| 地域資源の共有と開発 | 枚方市内の地域活動支援センターI型など、公的サービスや地域のインフォーマルな社会資源について情報交換を行い、利用者に最適な資源を組み合わせるための「サービスの知識や体験的理解力」を高める。 | |
| 交流会、ワークショップ | サービス等利用計画の共同検討・検証、相談支援専門員の日常的な相談活動を通じて明らかになった課題を共有し、個別の課題を地域全体の課題として整理・普遍化する訓練を行う。 | ワークショップ |
| 多機関・多職種連携 | 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた協議の場や、医療的ケア児等支援連絡会議など、保健・医療・福祉関係者との協議の場を通じて、多職種連携を円滑に行う技術とネットワークを構築する。 | 合同研修、会議シミュレーション |
Ⅲ. 基幹相談支援センターの役割:フレッシュマンを守り育てる仕組み
フレッシュマンが孤立せず、質の高い支援を継続できる環境を整えるためには、基幹相談支援センターによる継続的かつ専門的な後方支援が不可欠です。
枚方市では、地域における相談支援の中核的な役割を担う機関として基幹相談支援センターを設置しています。令和6年4月施行の改正法では、基幹相談支援センターの役割として、従来の個別支援に加え、「人材育成」と「地域づくり」が中核的な業務として明示されました。
1. 人材育成の推進と後方支援
基幹相談支援センターは、地域の相談支援事業者や相談支援専門員に対し、運営に関する相談に応じ、必要な助言や指導といった後方支援を行う役割があります。
• スーパーバイザーの育成と派遣: 個々の職員の能力向上には時間を要し、日々の業務に追われる中で人材育成が進まないという課題があるため、基幹相談支援センターはスーパービジョンができる人材(主任相談支援専門員など)の育成を進める必要があります。
• 継続的なOJT(実地指導): 基幹相談支援センターの職員が、初任者の相談支援事業所を巡回訪問し、相談支援における困りごとや不明な点を確認し、個別対応を行うといった巡回型総合相談を実施することは、初任者のフォローと地域課題の抽出に有効です。
2. 相談支援専門員の力量と処遇の課題
相談支援の仕事は、出来高で評価されにくい特性を持っています。計画相談支援にかかる報酬単価は他の障害福祉サービスに比べて格段に低く、労力に見合った報酬になっていないため、ベテラン職員を雇用できる収益構造になっていないのが実情です。
そのため、研修では、報酬算定の仕組みや加算要件(機能強化型加算など)を正確に理解し、制度を最大限に活用し、事業所の安定化を図るための経営的視点も重要になります。
また、複数の法人が事業を委託されている地域(拠点分散型)では、職員の経験年数にバラツキが出やすいため、地域全体として継続的に一貫性を持った人材育成の仕組みを構築する工夫が求められます。フレッシュマン研修は、枚方市全体としてこの課題に取り組むための、重要な基盤となるのです。
--------------------------------------------------------------------------------
Ⅳ. まとめ:フレッシュマンが地域づくりの担い手となるために
相談支援専門員の役割は、単にサービスを繋ぐだけではありません。利用者のニーズを把握し、地域の社会資源をうまく活用しながら、地域の課題として可視化し、解決につながる取り組みを推進する役割を基幹相談支援センターと共に担うことになります。
フレッシュマンの皆さまがこの複雑で重要な役割を楽しく、かつ持続的に果たせるよう、研修は「正しい知識のインプット」と「楽しい実践と交流のアウトプット」のバランスを重視して設計されています。
この研修を通じて、制度や書類の「正しさ」を理解し、その上で、利用者や地域の関係者との関わりの中で生まれる「楽しさ」や「発見」を大切にする実践力を身につけていただくことを期待しています。
フレッシュマンの皆さま一人ひとりが、地域のネットワークの担い手となり、利用者の「より本人らしい暮らし」を共に実現していく。この研修が、そのスタートラインとなることを心より願っています。
(枚方市相談支援事業所連絡会 相談支援体制強化チーム)

